暗黙知と形式知とは?
暗黙知を形式知に変換するメリットと手法
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企業活動に欠かせない知識は全社員に浸透させたいところですが、実際には個人の経験や感覚で処理され、言語化できていないものもあります。それを解決するのが、ナレッジマネジメント。今回はナレッジマネジメントの大切な要素である「暗黙知」と「形式知」、そして暗黙知を形式知に変えるメリットや手法をご紹介します。
暗黙知とは?
暗黙知とは、個人の感覚や経験に基づいた知識やスキルのことです。勘、センス、コツなどを指し、周囲に言葉で伝えるのが難しいものを指します。初めて暗黙知を提唱したとされるのは、ハンガリーの学者マイケル・ポランニーで、著書『暗黙知の次元』の中では、言葉や図解で簡単に表現できない知識が「暗黙知」と表現されています。仕事の場においては、顧客の趣向を的確に掴んでいる営業マンや、社内の調整に長けた人事など、さまざまな職種において暗黙知が活用されています。暗黙知の特徴としては主に以下の3つが挙げられます。
暗黙知の特徴
●言語化、図形化しづらい
見て覚えたもの、やってみて覚えたものなので、感覚的な部分が多い
●経験から獲得される
個人の経験を通した、主観的なものに基づく知識である
●データとして集約が難しい
熟練社員に属人化している
暗黙知の具体例(日常生活)
日常生活における暗黙知の具体的な例をご紹介します。
●スポーツ
理論を学んだり、指導者から言葉で説明を受けることもありますが、最終的には実際に体でコツや技を習得するので、具体的な言葉ですべてを説明することは難しいです。
●外国語のネイティブな発音
発音記号などで口の動きなどを学ぶことはできますが、ネイティブスピーカーのように発音するためには実際にその言語を使う経験が必要です。
●自転車の乗り方
教えてもらうことが一般的ですが、すべてを言葉で説明することは難しく、実際に体で覚えることで乗り方をマスターします。
暗黙知の具体例(職場)
職場における暗黙知の具体的な例をご紹介します。
●顧客対応スキル
特定の顧客に対する対応方法や、顧客の好み、求めていることを的確に理解する能力などがあります。
●チームワーク
チーム内の雰囲気を読み取る能力や他のメンバーとのコミュニケーションの取り方などがあります。
●仕事の効率化
特定の作業を効率的に行うためのテクニックやリソース管理のスキルです。
●問題解決
問題やトラブルが発生した時の対処法や問題を未然に防ぐための手段です。
●デザイナーのセンス
これまでの経験によりセンスが磨かれていることが多いです。
形式知とは?
形式知とは、暗黙知と反対の意味を持ち、文章や図解、数値などによって、誰でも理解できるような形式で表現された客観的な知識を指します。暗黙知と反対の意味を持つのが、形式知です。形式知という概念は、日本の経営学者である野中郁次郎が提唱した『知識創造理論』を発端に、世の中に広まっていきました。仕事の場においては、業務マニュアルや経費精算のフロー、各種作業手順書などが形式知に当てはまります。形式知の特徴としては主に以下の3つが挙げられます。
形式知の特徴
●言語化、図形化しやすい
他者に説明ができる、わかりやすい内容になっている
●論理的に獲得される
文書や数値など、客観的なものに基づく知識である
●データとして集約できる
個人的な経験であっても、マニュアル化することは可能
形式知の具体例(日常生活)
日常生活における形式知の具体的な例をご紹介します。
●料理のレシピ
ある料理を作るための具体的な手順と必要な材料を示しており、誰でも同じ結果を再現できるようにしています。
●言語の文法
特定の言語を話したり書いたりするためのルールは決められており、その言語を扱う者同士の共通認識としています。
●取扱い説明書
ある製品の操作方法について、それを読めば誰でも同じように理解できるように構成されています。
形式知の具体例(職場)
職場における形式知の具体的な例をご紹介します。
●マニュアルやプロトコル
特定のタスクをどのように実行するか、または特定の問題をどのように解決するかを明確に示しています。
●研修資料
新入社員向けの研修資料も形式知の一部。新しいスキルを習得するための具体的な手順や情報が提供されています。
●契約書や法的文書
特定の法的条件や義務を明確に示しているもので形式知の一部と言えます。
●コーディング規則
プログラミング言語の文法や、特定のプロジェクトや組織でのコーディングスタイルは形式知として存在します。コードがどのように書かれるべきかを示す一連のルールやガイドラインが提供されています。
暗黙知と形式知の相違点
暗黙知と形式知の大きな違いは言葉や図解で表現できるかどうかという点にあります。「暗黙知」と「形式知」の理解を深めるため、さらに以下3つの観点における違いをご説明します。
知識の共有方法
暗黙知は、個人の経験や感覚、直観に根ざした知識で、言語化や文書化が困難とされています。したがって、知識を共有するためには、実践を通じた観察、模倣、共同作業など、対面での社会化やメンタリングが必要とされます。
一方、形式知は、文書、マニュアル、データベースなどに明文化された知識です。形式知は容易に共有することができ、書籍、論文、電子メール、インターネットなどを通じて広範囲に伝達することができます。形式知の共有は、主に言語的コミュニケーションや標準化された手順に依存します。
学習と理解のプロセス
暗黙知の習得には経験学習が必要です。試行錯誤や実践を通じて直感や感覚を養い、暗黙知を身につけます。身につける際はしばしば無意識のうちに行われることがあります。一方、形式知は、教科書やマニュアルを読む、講義を聞く、オンラインコースを受講するなど、明確な教育的手法を通じて行われます。身に付ける際は、知識を体系的に学ぶことができます。
組織内での扱い方
組織内で暗黙知を扱う際には、その非形式的かつ属人的な性質を考慮する必要があります。組織は、知識を共有する文化を促進することで、暗黙知を伝達しやすくすることがあります。また、OJTやメンター制度を通じて、経験豊かなベテラン従業員から新人へ知識が伝えられるような環境を整える必要があります。
形式知の場合は、ナレッジ管理ツールを用いて情報を整理し、必要な知識を適切な人にタイムリーに提供することが重要です。これにより、組織内での標準化や効率化に貢献し、知識の再利用を容易にします。
暗黙知を形式知に変換するメリット
直感的に「こちらが正しい」という判断をくだすのは、暗黙知によるものです。暗黙知は言語化されていないながらも、意思決定の際に重要な役割を果たすことが頻繁にあります。これを形式知に変換して、誰もが扱える情報に変換することで、業務の生産性が大きく変化します。
メリット1.知識やスキルを全員で共有できる
社内のデータベースやナレッジマネジメントツールに形式知が集約されていれば、そこを参照するだけで誰でもほしい情報が得られます。暗黙知を持つ優秀な社員が休職したり、退職したりという場合にも、有益なナレッジが社内に残ります。
メリット2.伝達の正確性が高まる
文章、図解、数値などでわかりやすい形式知に変換されていることで、社員全員が正確な情報を得ることができます。それにより業務にばらつきが出にくく、提供する製品やサービスの品質のレベルを均一化することにもつながります。
メリット3.知識の継承や教育がスムーズ
業務内容でわからないことを先輩社員に逐一尋ねるというプロセスが減り、「教えてもらう時間」と「教える時間」ともに、教育にかかっていた人的コストが削減されます。何度も反復して知識を学ぶこともできます。
メリット4. 高度な知的業務ができる
ナレッジの形式知化が進めば、短い時間で求めていた解決策にたどりつくことができるため、業務効率を大きく改善できる可能性があります。そこで生み出された時間を顧客の課題解決に向き合うためのより本質的な業務に使うことができれば、結果的に利益のアップにもつながるでしょう。
ナレッジマネジメントで暗黙知を形式知に変換する
ナレッジマネジメントとは、知識やノウハウ、成功事例や失敗事例といったナレッジを社内で共有し、企業の成長につなげていく経営手法のこと。優秀な人材の暗黙知を形式知へと転換することで全社員が活用できる。それがナレッジマネジメントの本質です。
ナレッジマネジメント実践するためには、継続的に暗黙知を形式知へ変換させなければなりません。そのためには、「SECI(セキ)モデル」と呼ばれる4つのプロセスを繰り返します。「SECI」は、共同化(Socialization)、表出化(Externalization)、結合化(Combination)、内面化(Internalization)と、4つの頭文字を組み合わせた言葉です。
ナレッジ×人材に着目する重要性
また、ナレッジマネジメントの成功の秘訣は、単に暗黙知を形式知するということにとどまらず、人材に着目することです。例えどんなに精度の高いデータが共有されたとしても、そのデータが導かれるまでに、その人が経験してきたプロセスや思いを読み取ることはできません。より踏み込んだナレッジマネジメントでは、データを作った人自身に意識を向けることが重要になります。
そもそもナレッジマネジメントの目的は、ナレッジを共有し、人材同士を交流させて、組織を育てていくことです。知識の詳細だけではなく、「なぜどのような視点からその知識が確立したのか」という思考のプロセスをナレッジと人材のセットで共有することで、新しいアイデアや発想も生まれやすくなるでしょう。
まとめ
空気を読む文化がある日本では長い間、先輩社員の背中を見て、後輩が学んでいくというような人材教育が行われてきましたが、それには何年もの時間が必要でした。また最近では、テレワークが浸透したことによって社内でのコミュニケーションが減り、知見を共有する機会が失われるということも起きています。そんな背景を踏まえてもナレッジマネジメントの役割は一層重要になっています。企業が成長し続けるために、知識の蓄積は欠かせません。暗黙知を形式知に変換していくには人力だけでは難しい面も多いので、ぜひナレッジマネジメントツールを活用しながら、効率的に暗黙知を形式知化することを考えてみてください。
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