ナレッジマネジメントとは
「情報共有」がゴールではない?
- イノベーション
- 人材活用
技術革新や新しいビジネスモデルの考案が求められる昨今、社内のナレッジを活用するナレッジマネジメントを経営や組織・部門運営に取り入れることは欠かせません。そんなナレッジマネジメントに取り組みながらも、思うように情報が活用できていないというケースも多いのではないでしょうか。
そこで今回は、ナレッジマネジメントの本質や成功のためのポイントを解説します。
ナレッジマネジメントとは
ナレッジマネジメントとは、社員一人一人が持つ経験や知識、ノウハウなどの「ナレッジ」を社内で共有することで、新たな技術革新や生産性向上のために役立たせることを通じて、事業の成功および企業成長を目指す手法です。
特に自社の社員が長年の業務経験で培ってきた知識やスキルは企業にとっての大きな財産です。そのナレッジを十二分に活用することが、イノベーション創出のきっかけになると考えられます。
DXや働き方改革の推進が求められ、従来のやり方を変革していかなければならない時代です。そのような今、ナレッジマネジメントは重要な取り組みといえます。
ナレッジマネジメントの目的

ナレッジマネジメントは、組織内に存在する暗黙知(個人的な経験や知識、技能、洞察力など)を、形式知(文書化された情報やデータなど)に変換し、共有可能な形にすることを目的としています。
形式知は文書化された情報やデータなどの形で存在しているので共有可能である一方で、暗黙知はいわゆる熟練工が持つ経験やスキルのように言葉で表現されておらず、共有することが難しいという特徴があります。
ナレッジマネジメントは、暗黙知を形式知に変換することで以下の様な目的を達成することができます。
・高度な知的業務(研究開発や新規事業、企画業務)のパフォーマンスを高める
・組織全体の生産性や効率性を向上させる
・人材教育・育成の効率化
・組織内のコミュニケーションを促進
ナレッジマネジメントのプロセス(SECIモデル)

ナレッジマネジメントのプロセスを表すモデルにSECIモデルというものがあります。ナレッジマネジメントを行う際にSECIモデルを取り入れることで、組織内の暗黙知を形式知に転換し組織全体でナレッジを共有・管理することで、新たな知識を生み出すことができると言われています。
SECIモデルには以下4つのプロセスがあります。
Socialization(共同化)
作業を直接見て学ぶといったプロセスです。言葉ではなく、体験を通じて暗黙知を共有していくものとなります。
Externalization(表出化)
暗黙知を図やテキストなどの形式知に変換するプロセスです。
Combination(連結化)
表出化のプロセスで変換された形式知と他の形式知を組み合わせて新たな知識を生み出すプロセスです。
Internalization(内面化)
連結化プロセルによって新たに生み出された形式知を自分のものとし、暗黙知へと変化するプロセスです。
ナレッジマネジメントのよくある課題

ナレッジマネジメントを実施するものの、差し当たって次のような課題に直面することが多くあるようです。
「データの共有」に留まっている
ナレッジマネジメントは「データの共有」といったレベルに留まってしまっているケースが多くあります。
社内に散在するデータを1箇所に集めて形式をそろえ、整理してデータを検索できる状態にするところまでは大変な労力が必要です。それもあってか、データ共有や検索できた段階で安堵してしまい、その時点を一旦のゴールとしてしまっていることはよくあります。
暗黙知がデータ化されていない
ナレッジマネジメントで取り扱うナレッジには、大きく暗黙知と形式知の2種類があります。
暗黙知は、いわゆる熟練工が持つ経験やスキルのように言葉で表現されていない知識です。一方、形式知はすでに言葉で表現され、文書になっているもので、マニュアルやレポートなどが挙げられます。
ナレッジマネジメントの際に、暗黙知が除外されているケースがありますが、暗黙知こそ大きな価値があると考えられます。まずは暗黙知を見極め、形式知にする必要があります。
社内でナレッジマネジメントの意識が低い
社内でナレッジマネジメントがなかなか浸透しないという課題です。ナレッジマネジメントは、経営層にとってはメリットが大きくても、社員一人一人にとってはメリットが感じにくいことが原因と考えられます。
「データ共有」だけのナレッジマネジメントが失敗してしまう理由
先述の課題のうち、「データの共有」に留まってしまう課題は、どのような企業でも多かれ少なかれ、生じてしまうものです。なぜ、「データの共有」だけではナレッジマネジメントはうまく行かないのでしょうか。
その原因として、ナレッジマネジメントの本質の理解がされていないことが一つに挙げられます。
この図は、ナレッジマネジメントを表したものですが、一般的には、ピラミッドの下の2ブロックの「データ整理」「情報共有」までに留まっています。また、データが膨大で検索することが難しいなど、その取り組みが実際に運用されているかという点では、そこも不十分なケースも散見されます。
しかし本当の意味でのナレッジマネジメントは、上の2ブロックの「知識理解」「知恵活用」まで行ってはじめてできたといえます。
このことを理解して環境整備と社内周知を行っていくことが、課題解決への一歩となるのではないでしょうか。
ナレッジマネジメントの本質は「データ」ではなく「人」
ナレッジマネジメントの本質に、さらに踏み込んでみましょう。
単なる「データ共有」では、それぞれのデータに込められた「人」が辿ってきた経験や込められた想いや思考の過程までは伝わりません。
そのため、ナレッジマネジメントで「知恵」を活用するためには、データを作った人材、そしてその知恵を活用する人材が重要になってくると考えられます。
人の思考過程を含んだナレッジマネジメントは、言い換えれば「タレントマネジメント」と呼ぶことができます。タレントマネジメントは本来、人事的な意味で使われることが多いですが、ここでは「タレント=能力・知見を持つ人材」という意味合いとなります。
本来、ナレッジマネジメントというものは、「ナレッジ」を共有し、タレント同士を交流させ、組織的に育成することにあるのではないでしょうか。
例えば、熟練工の技術であれば、その技術の具体的な工程だけでなく、その熟練工がなぜ、どのような思いでその技術を採用するに至ったのかという思考のプロセスをナレッジと人材のセットで共有するということです。
このようにナレッジとタレントを結びつけることによって、タレントとナレッジ、タレントとタレントがつながることで、初めて技術革新や新しいビジネスモデルの開発が可能になるのではないでしょうか。
ナレッジマネジメントが企業の成長へと導く

本当の意味でのナレッジマネジメントを実現すれば、企業の価値は大きく上昇すると考えられます。
その理由としては、技術革新などを通じて生産性向上や業務効率化が実現するからということが挙げられます。
しかし、それだけではなく、ナレッジマネジメントによって社員同士のコミュニケーションや、顧客とのコミュニケーションが活性化することにより、モチベーションの高まりや信頼性の構築にもつながる可能性があることも、企業価値向上の大きな理由となるのではないでしょうか。