コラム

2023.05.16

大企業からイノベーションを実現する既存事業との向き合い方とは?

  • イノベーション
  • 人材活用

面白い仕事をするためなら何でもやってやる。
そんな思いで研究開発におけるイノベーションや、新規事業の創発、マネジメントなどを手掛けてきた、ライオン株式会社 研究開発本部 イノベーションラボ 所長の宇野大介氏。
(所属・役職は取材を行った2022年12月現在)
今回は「大企業の中でいかにイノベーションを生み出すのか、既存事業との向き合い方とは」についてお話いただきました。

経歴を教えてください。

1990年にライオン株式会社に入社して、約20年は歯磨剤の研究開発をしていました。そのあとクリニカブランドのブランドマネージャー、歯磨剤開発マネジメント、オーラルケア製品の生産技術開発のマネジメントなどを経て、2018年に新規事業創出をミッションとした「イノベーションラボ」が発足したときに所長に就任しました。
元来新しもの好きで、いろんなことに首を突っ込むタイプなので、新しいポジションができるたびに声がかかってここまで来たという感じです。

どのような新規事業を手がけましたか?

「イノベーションラボ」として世の中に出したプロジェクトをいくつか紹介します。
1つめはSony Startup Acceleration Program(SSAP)の支援のもと、京セラ株式会社と共同で開発した、子ども向けの仕上げ磨き用歯ブラシ「Possi(ポッシ)」です。仕上げ磨きをしようにも子どもが逃げたり、口を開けなかったりして毎日苦労しているという開発員の実体験から、ブラシの振動による骨伝導技術で、歯みがきをしている間だけ好きな音楽が聞ける歯ブラシが商品化へと至りました。
2つめが、ベンチャー企業のTANOTEC株式会社と手がけた、高齢者向けのバーチャルゲームプログラムです。このプログラムでは東京大学医学部附属病院22世紀医療センター運動器疼痛メディカル リサーチ&マネジメント講座 松平 浩特任教授と開発した、口腔・睡眠・運動器を同時にトレーニングする「健口眠体操」を楽しみながら実施することができます。口腔・睡眠・運動器を同時にトレーニングすることで、加齢による心身の衰えを予防することを期待しています。

まず決めたのは、既存事業をやらないこと。

イノベーションラボは研究開発部門にある組織ですが、どのようにスタートしていったのでしょうか。

イノベーションラボを立ち上げて最初にメンバーに話したのは、既存事業に関わることは一切やめようということでした。既存事業の開発や研究にも力を貸してほしいという社内要請もあったのですが、そこに時間や労力を使うと、本来の目的である新規事業ができないからです。片手間にできるようなものではないので、他の部署に対しても同様のことを伝えました。やはり集中して向き合える環境はあったほうがいいと思います。

このような環境でやっていくことを経営陣と合意できたのも大きいです。イノベーションラボを創設して、社員を20人集めて、場所を作って、しかも既存事業の手伝いはしない…というのはかなりの投資と割り切りが必要なので、経営判断がなければ始まらない。経営陣に新規事業に取り組むことに対しての理解がある、そういうことは土台としてあったので、経営陣と一緒になって環境をつくっていった、これが最初の仕事だったと思います。

既存事業以外のことをやる、と決めるということは、自分たちの得意分野をやらない、ともとれるかと思います。そこから何かを生み出すことは難しいように感じますが、いかがでしょう。

既存事業のことはやりませんが、これまでの技術や知識を捨てたわけではありません。
先ほど挙げた「Possi」「TANO-LT」はどれもライオンだからできたものです。ライオンが持っている香り、歯磨き、口腔の動きに関する専門知識が活用されています。「既存事業の手伝い」をやらないと決めた一方で、技術や知識は大いに活用する。この「離れていても活用できる」距離感というか、関係性は重要です。

「活用」と言いましたが、これも簡単ではありません。ニーズやアイデアと技術を掛け合わせることで、新しい価値を生み出すことができます。しかし、掛け合わせるためには、その技術がどういうものなのかを理解しながらも、違う視点で見ることができなければならない。言ってみれば、切り口、視点を変えて理解することが大事です。

視点を変えるうえでは、やはり社外との連携や協業が有効なのでしょうか。

確かに、別の企業との協業は有効です。先に例としてあげた製品についても異なる企業とコラボレーションしていますし、私自身積極的に社外に出て交流することで視野が広がっています。
一方で、より重要な観点は自分たち自身がで自社の技術や知識をいかにとらえなおせるか、という点です。
イノベーションラボでは、顧客視点やデザイン思考を大事にしていますが、視点だけでは価値は生み出せません。顧客の課題を明確にし、いま持っている技術や知識をこれまでと違った目線で見なおすことによって、新しい価値を生み出せると考えています。
例えばある技術を使ったアイデアについて、若い研究員が豊富な知見や優れた技術を持っている研究員に相談した際、「それは以前やったことがあるけれどダメだった」と言われてしまい、そこで終了してしまうといったケースがあります。でも、その技術は担当者が変わることで違う切り口が発見できるかもしれない。同じ社内であっても違う研究をやっていたことで、異なるとらえ方ができる人間は存在します。そういう意味では、既存事業はイノベーションの種にあふれていると思っています。

模索したのは、既存事業を活かすこと。

研究開発部門の中にあることで、既存事業の技術や知識は活用しやすかったのではないでしょうか。

いきなりすべて社外に出て、というわけではなく、大きな意味では部門も同じですし、敷地も同じで、連携しやすい状況だったといえます。ただし、研究のリソースを全て使えていたわけではありません。
たとえば、研究成果は研究報告書を書いて、それを蓄積していく仕組みがあります。ただ、効率的に管理・運用されているかというと、実際のところは難しいのが実情ですね。そもそも論文形式にまとめなければいとならないので、作成、アップするのに手間がかかりますし、どうしても目の前にある仕事を優先してしまうため、研究報告書をなかなか作成出来ないこともあります。また、古い研究成果や失敗事例を見せても仕方ないと考えてしまう人もいます。そのため、そもそも情報が全部出揃っていない、という状況でもありました。

さらに、それらの情報を検索するシステムもあるのですが、検索性がいまひとつで思ったような結果が出てこないなど、改善の余地があるように感じています。

加えて、研究、営業、事業本部、生産本部と部署をまたいで情報をシェアしているわけではないので、既存事業全体の知見を活用している、とは言い切れません。
もっとお互いの知見や経験をシェアしあうことができれば、従来とは違うものを生み出せる機会は増えるかもしれないと感じます。

知見を活用するための情報共有については、工夫されてきたのではないでしょうか。

現状の研究報告書のフォーマットは、そもそもデータ作成の段階にハードルがあるので、それ以外のプレゼンで使ったパワポやPDFを入れて共有できるシステムがあるとよいと考え、実際自分たちで作ろうとしました。
しかし、うまく検索できず、膨大な資料の中からほしい情報にたどりつくのが難しい。他社に相談しましたが、コストがかかりすぎてしまうといった問題がありました。
情報を誰もがもっと気軽に共有できて、誰もが情報を簡単に検索できる環境をつくろうとしてもなかなか難しい、というのが実情でした。

検索が、既存事業を活かすヒントをくれる。

お話を聞いていると、既存事業とは距離を置きながらも、既存事業の技術や知識はとても大事にしているように感じます。

イノベーションラボでは、顧客視点やデザイン思考を大事にしていますが、視点だけでは価値は生み出せません。いままでと違った目線で見れば、いま持っている技術や知識によって、新しい価値を生み出せるかもしれません。前にも述べた通り、若い研究員が豊富な知見や優れた技術を持っている研究員に相談しても、「それは以前やったことがあるけれどダメだった」といわれ、話が終了してしまうことがあります。
もっとお互いの知見や経験をシェアしあうことができれば、従来とは違うものを生み出せる機会は増えるかもしれないと感じます。
だからこそ、色々な手段で模索を続けていました。

「saguroot」は、眠っているナレッジを活用することを目指したソリューションですが、体験していただいていかがでしたか。
※画面は開発中のものです

実は、最初に話を聞いたときからいいなと思っていたんですね。データの形式も問わず、一括で検索できる。しかもファイルの中身も検索できる、と聞いていたので、「saguroot」を導入すれば現状の課題はかなり解決するかもしれないと感じました。

※画面は開発中のものです

実際に触ってみると、データの形式はもちろん、いろいろ色々な人が異なる目的で作ったバラバラのデータでも、中身までキーワードできちんと探してくれる。例えば「香り」というキーワードで検索した際に、実際には「香り」という言葉を使っていない「口臭」に関するデータも表示される検索性は、特に便利だなと感じました。
キーワードだけではうまく数が絞れなくても、担当者や資料を提供してくれた部門、資料の種類などで絞り込みをかけられるのも、助かる機能です。

担当者から探せるのは非常にありがたいです。実際、先輩から失敗だったと言われただけであきらめていた案件も、当時の資料を担当自身が調べられます。そのため、どのような分野に関わってきた人が、どのような理由で失敗したかが理解でき、新しい活用法が見いだせるかもしれません。
日の目を見なかったイベーションの種が芽を出すチャンスも増えるのではないでしょうか。何かと何かを掛け合わせることで新しいものは生まれやすくなるので、当然一人ひとりが知ることができる技術や資料があればあるほど、チャンスは増えるはず。
sagurootにはたとえ部署や拠点が離れていても、お互いの知見を活用できる環境をつくってくれる可能性を感じています。

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