技術伝承とは?課題と成功に導くための解決策を解説
- 人材活用
ベテラン社員が持つ技術を、次の世代に引き継ぎ、事業を発展させていきたいと考える企業は多いでしょう。しかし現在は、社会全体が高齢化する一方で、若い人材は減少し、技術を適切に伝承することが難しくなっています。技術伝承は、経営者をはじめとして組織全体が一丸となって取り組むべき重要な施策です。本コラムでは技術伝承が抱える課題や解決策について解説します。
技術伝承とは
技術伝承とは、特定の知識や技術、ノウハウをそれらを豊富に有する職人、専門家、ベテラン従業員などが次世代に引き継ぐことを指します。以前は製造業などのものづくり関連企業を中心に使用されていましたが、近年では広く使われています。
ここでいう技術とは、一子相伝のような伝統技術だけでなく、企業の内部技術や独自の作業手順も対象です。効果的な技術伝承は、組織の持続可能性を保ち、知識の損失を防げるといった点で重要となります。
伝承方法としては、口頭での説明、実践的なトレーニングを通した指導、マニュアルを作成して書面での伝達、などが挙げられます。
技術伝承における「暗黙知」と「形式知」
技術伝承において、技術は「暗黙知」と「形式知」の2種類があります。
暗黙知は個人の感覚や経験に基づいた知識やスキルのことで、勘やセンス、コツなども含まれ、属人性が高く、周囲に言葉で伝えるのが難しいものを指します。
一方、形式知とは、文章や図解、数値などによって、誰でも理解できるような形式で表現された客観的な知識を指します。
形式知化されている技術であれば、教える立場の技術者でも受け継ぐ技術者でも伝承しやすい一方で、暗黙知状態の技術は伝承が難しいといえます。
>暗黙知と形式知とは?暗黙知を形式知に変換するメリットと手法
技術伝承と技能伝承
技術伝承に類似した用語として、「技能伝承」があります。
一般的に、「技術」はやり方や方法を表しており、言葉や記述された知識として学ぶことができます。一方で、「技能」は人間の行為や能力・技量を表し、個人の経験を通じて獲得されるものです。
以上のことから、ビジネスシーンにおけるナレッジなどの伝承は、「技術伝承」が適しているといえますが、業界や企業によっては定義が異なる場合があるため、状況に応じて確認するとよいでしょう。
技術伝承が進まない理由
技術を伝承しなければ企業活動は廃れてしまうことは誰でもイメージができますが、では一体なぜ技術伝承は進まないのでしょうか。ここでは主な4つの理由を解説します。
教えられる人材が不足している
そもそも専門知識や技術を持つ者が少なく、教えることができる人材自体が足りていない場合があります。また技術者の高齢化によって、技術伝承がされないまま定年を迎えてしまうケースも少なくありません。特に団塊世代が一気に退職した2007年以降、その世代が培った技術やノウハウの伝承が追いつかず、生産性の低下をもたらしているのではないかという懸念も聞かれます。
教育や研修を行う時間が取れない
2つめは、目先の業務対応に追われ、技術伝承するための時間は後回しになることです。人手不足の職場では特に日々の業務をこなすだけで精一杯で、じっくりと技術伝承に時間を割くことができません。技術伝承は一朝一夕に終わるものではありません。マニュアルを作成し、OJT研修をし…といったプロセスが必要で手間も時間もかかります。
機密性が高く、組織内でも公にできない
機密性の高い情報は、できれば限られた人のみで管理したいというのも一因です。場合によっては他部署と機密性の高い情報を共有したり、あるいは重要な会議などで一時的に他社に開示しなければならない、といった場面に遭遇することもあるでしょう。ただ、企業秘密とも言えるような専門的な技術を多くの人にシェアすればするほど情報漏洩のリスクは高まり、トラブルや事故につながることもあるので慎重になります。
新しい知識や技能の習得に対する意欲が低い
社員は常に新しいスキルや知識を学び続けることが必要です。でも全員が常にモチベーションが高いわけではないのが現実です。これはもはや技術伝承以前の問題かもしれません。変化の激しい時代には技術を学んだ上で、さらに新しいアイデアを生み出すことができなければ生き残るのが難しいからです。そもそも受け手の意欲が低い場合、技術伝承はうまく進まないのが当然です。
技術伝承の課題
次に具体的な課題を抽出してみましょう。自社の課題を明確にすることで、解決の糸口が見えてきます。
暗黙知のため継承が難しい
まず、ベテラン社員が持つ知識、技術が暗黙知となっているため、継承が難しいという理由が挙げられます。例えば製造業であれば業務のノウハウは、熟練作業員の「動き」によるものです。無意識に行っている動きの伝承は、言語化してマニュアルに落とし込むのが難しいことや、作成しても細かなニュアンスまではなかなか伝えることができません。
>暗黙知と形式知とは?暗黙知を形式知に変換するメリットと手法
ほしい情報がすぐに探せない
マニュアルが散らばっており、必要な情報がどこにあるのかわからない状態です。技術伝承の重要性を社員が理解し、情報を集約することに協力してくれなければ探し出すのは困難です。ツールが使いにくいと自分が必要な情報にたどり着くのが難しいです。「フォーマットやカテゴリー分けは適切か」「既に蓄積した情報と重複していないか」などを確認して情報を整理する仕組みがあれば、検索性は高まります。
マニュアルの内容が難しく理解できない
マニュアル化されているものの内容が難しくて理解できないという声聞かれます。また、ベテランの社員が最初に作成した依頼、誰も更新をしていないとマニュアルの内容が古くなってしまい、ますます何のことかわからなくなってしまいます。マニュアルを技術伝承の源と捉え、わかりやすく編集すること、定期的に更新する運用方法の策定が重要です。
技術伝承の解決策
もっとも大切なのは解決策です。今回は3つをご紹介しますので参考にしてみてください。
暗黙知を形式知に変換し、ナレッジ共有しやすい形に
技術の手順を明確にしてまとめます。すべてを言語化するのは難しい部分もあるので、画像や動画を用いて、言語化が難しい内容についても伝えることが大切です。暗黙知である技術を、他の技術者にも理解できるように見える化するときに「動画」は有効な手段です。熟練技術者の目線や行動、スピード感といった言葉で表しにくい情報を一目瞭然な形で残せるからです。
マニュアルを整備する
整備されたマニュアルは、技術伝承の効率を大幅に向上させ、若手社員の学習に重宝します。マニュアルは技術の手順を示すだけでなく、それぞれの手順に対する注意点やコツ、そしてなぜその手順が必要なのかという背景知識も記載しましょう。ただ手順を覚えるだけでなく、その背景にある理由や目的を知ることで、より理解が深まり、技術の習得が身に付きやすくなります。
マニュアルと人材をセットで考える
見逃しがちですが、大変重要なポイントです。マニュアルだけで終わらせるのではなく、その技術を持つ社員とコミュニケーションをとる環境を整えるのが望ましいです。技術伝承を成功させるためには、後継者がその技術を理解して自身のものとして使いこなせるようになるまでのプロセスを含むため、単にマニュアルを読んでもらうだけではなく、教育体制の構築が不可欠だからです。
技術伝承をデジタル化する方法
技術伝承のデジタル化は、業務効率化や人材育成に大きく寄与します。会社の成長には、経験や勘といった「目に見えない」技術の伝承が必要不可欠ですが、これをデジタル化することで、技術の一覧化、可視化が可能となります。
以下に技術伝承をデジタル化する方法をご紹介します。
1.動画にする
技術を実演する様子を動画に残します。これにより、視覚的に技術を学ぶことが可能になります。また、動画は何度でも再生可能なので、繰り返し学習することができます。
2.ナレッジベースにデータを蓄積する
ベテラン社員や熟練者の技術をデータベース上に蓄積しておくことで、必要なタイミングでデータベースから技術を学ぶことが可能になります。
まとめ
技術伝承を成功させるためのファーストステップは、暗黙知となっている知識を形式知に変換すること。そして形式知化された知識を整備する際には、ナレッジマネジメントツールの導入が有効です。ベテラン社員が忙しくて教える時間がなかったり、あるいは「技術は見て盗むものだ」という考えを持っている人も未だゼロではありません。企業は組織の施策として技術伝承を効率的にバックアップしましょう。
sagurootはナレッジとタレントを紐づけた形で情報を整理することで、組織内のコミュニケーションを促進。技術伝承の課題解決にも重宝するナレッジマネジメントツールです。